投球イップス 近い距離で指の感覚がなくなる

PCRT症例報告:投球イップス | 鶴見茉由

投球イップス
近い距離で指の感覚がなくなる

15歳 男性(高校生・キャッチャー)| 4回通院 | 完治

報告者: 鶴見 茉由 | 接骨院くら | PCRT歴 4年

報告者・施術院情報

報告者氏名 鶴見 茉由
臨床歴(開業歴) 7年目
PCRT歴 4年
施術院名 接骨院くら
初診年月日 2026年4月5日
報告期日 2026年5月12日
🏷 投球イップス 🏷 スタメン・プライド 🏷 試合場面特異性 🏷 誤作動記憶 🏷 認知の柔軟性 🏷 スポーツパフォーマンス

症例要約

✓ 完治(4回)
治療期間 2026年4月5日〜5月10日
通院回数 4回
1回の治療時間 45分以内
転機 3回目(症状10→2)

約3週間前に発症した投球イップスが、患者さん自身が素直に認知調整法を受け入れ、4回の調整で完治した症例。「スタメンで試合に出る」こだわりへの様々な解釈に柔軟性が出たことが改善の核心。

指標 初回 2回目 3回目 4回目
症状の程度(NRS) 9 7 2 1
症状に対する予期不安 9 7 2 1
CGI-I(改善の程度) 3 1 1
CGI-S(初診時重症度) 7(初回のみ)
📈治療経過グラフ
📋はじめに・発症経緯
年齢・性別 15歳・男性
職業 高校生
競技・ポジション 野球(キャッチャー)
発症時期 来院の約3週間前(中3終わり頃)
特徴 素直・真面目・いい子

本症例は、中学から高校に上がるタイミングで発症したイップスの症例である。小3から野球を始め、現在に至る。今まで小・中とキャプテンを任され、スタメンもほぼ外れたことがない選手。「スタメンで試合に出る」こだわりが強く、それに対して様々な解釈が関係していた。解釈に柔軟性が出て、順調に改善に向かっていきました。

気がついたら症状が出ていて、頻繁にイップス症状が出るようになっていった。暴投をした後には症状が強く出てくる。近い距離を投げる時に指の感覚がなくなるが、遠い方は投げられるという特徴的な症状パターンを示していた。

📅治療経過(全4回)
初回 2026年4月5日
患者の訴え
  • 近い距離を投げる時に指の感覚がなくなる
  • 遠い方は投げられる
  • 暴投してしまった後は必ず症状が強くなる
症状の程度 9/10
予期不安 9/10
CGI-S(初回症状の程度) 7/7

短い距離の投球イメージEB(情報系EB)+右手第2・3指骨系EB

AMベーシック(ハード) PCRT認知調整法(ソフト)
身体系&情報系EB 反応言語 内容 調整後
短い距離の投球イメージEB(情報系EB)+右手第2・3指骨系EB 復讐心+虚栄心 野球・自分自身に:理想の先輩がいる。人間的にも技術的にも。現在10→6 陰性化
恐怖 野球:3年生がいなくなった時のレギュラー争い。スタメンになれなかった時の不安。今までスタメン外れたことないし昔からキャプテンというプライドが揺らぐ 陰性化
小3から始めた野球で、小学生・中学生とずっとスタメン・キャプテンという立場を任され 「私はできる選手」というプライドが強く関係していた。
2回目 2026年4月12日 7日後
患者の訴え
  • 近い距離がほぼ毎回イップスが出ていたけど、出ない時もあった
  • キャッチボールOK。ピッチャーへの返球は出る
  • 症状が軽いときは10→3、ひどいときは10→10
症状の程度 7/10
予期不安 7/10
CGI-I(初回比較) 3/7

近い距離の返球イメージEB(情報系EB)+第2・3指骨系EB

AMベーシック(ハード) PCRT認知調整法(ソフト)
身体系&情報系EB 反応言語 内容 調整後
近い距離の返球イメージEB(情報系EB)+第2・3指骨系EB 警戒心 野球・同じポジションの選手:レギュラー争いで負けたくない。下に見られるのが嫌。レギュラー=上手い人。中学生の時の記憶が関係している 陰性化
忠誠心 キャッチャーで返球する時:テンポを良く、早く返球しないといけない 陰性化
犠牲心 部活の先生:1年生だけど夏の大会に出る責任。それまでにイップス治さないと。先輩がいるのに試合に出てミスしたら申し訳ない。選ばれたからには見合った活躍をしないといけない 陰性化
「テンポよく返球しないといけない」というルール。自分の中学生の時のピッチャーでの成功体験が影響。「テンポとかあまり考えなくていいと思う」と自己認知した。

1年生ながら試合に出させてもらえることが決まって「出場するからには見合った活躍をしないといけない、ミスをしてはいけない」と自分を縛る。→中3時の後輩が試合でミスした時の記憶「まじか」という解釈が、自分もミスした後輩と同じ立場になって「そう思われるのでは?」という不安につながる。
「試合に出ることで得られることは?」→「先輩がいる中で試合に出られることはいい経験。今後に活かされる」と認知した。
3回目 2026年4月26日 14日後 ⚡ 転機となった施術
患者の訴え
  • 回数がだいぶ減った! 症状の程度10→2
  • 不安なく投げられるようになってきた
  • キャッチャーからピッチャーへの返球がたまに出る時がある
症状の程度 2/10
予期不安 2/10
CGI-I(初回比較) 1/7

キャッチャーからピッチャーへの返球イメージ(情報系EB)+第2指中手骨骨系EB

AMベーシック(ハード) PCRT認知調整法(ソフト)
身体系&情報系EB 反応言語 内容 調整後
キャッチャーからピッチャーへの返球イメージ(情報系EB)+第2指中手骨骨系EB 猜疑心 副顧問:投げ方の指導をもらう。自分の感覚で良いと思っても違うと言われて「本当に?」 陰性化
逃避+警戒心 同じイップスの先輩:守備練習で目の前でイップスで暴投すると、自分もなったらどうしようと思うことがある 陰性化
貢献 野球:貢献度10→7。良いプレーが続けられるかな?試合に出られなくなったらどうしようという不安がある 陰性化
「自分の感覚を信じると良い」と再認知。
「試合に出ないことで得られることがあるとしたら?」 →「悔しいからまた頑張る力が出る」「裏方のことを知れるから思いが強くなる、いい感じする」と別の解釈を認知した。
4回目 2026年5月10日 14日後 ✓ 最終回 / 完治
患者の訴え
  • ほとんどイップスでない
  • 普通に練習できている
  • 不安もほとんどなし 10→1
  • 昨日ブルペンで一回、暴投したけど感覚は良かった
症状の程度 1/10
予期不安 1/10
CGI-I(初回比較) 1/7(完治)

昨日のブルペンでの暴投イメージは反応なし(イップスではない)。予期不安イメージ(情報系EB)

AMベーシック(ハード) PCRT認知調整法(ソフト)
身体系&情報系EB 反応言語 内容 調整後
予期不安イメージ(情報系EB) 犠牲心 自分関係:自分の時間・休みが欲しい。本音は休みたい。練習と休息のバランスが崩れている感じ 陰性化
探究心 野球:バントを上手くならないと。バントが苦手だから。チームの方針でバントを取り入れていく戦術。ミスするとチームに迷惑がかかってしまう 陰性化
恐怖 野球:スタメンに選ばれるか不安 陰性化
「スタメンで試合に出る」こだわりがある。
「①自分のパフォーマンスを出しているけど選ばれないのと、②自分のパフォーマンスを出していないのに選ばれる。どっちがモヤっとする?」→ 「②ですね。笑」
「試合に出る、出ないは監督次第。何を意識すると良さそう?」→ 「自分のパフォーマンスを出すことを意識します!」
💡考察

本症例は、近い距離やピッチャーへの返球時に「指の感覚がなくなる」という投球イップスが4回の調整でスムーズに改善した症例です。この選手は「スタメンで試合に出る」というこだわりが強くありました。小・中学生の時にはキャプテンを任され、スタメンはほぼ外れたことがなく「私はできる選手」というプライドがありました。「試合に出られなかったらどうしよう」という不安があり、「試合に出ないのはあり得ない」という思考で自分を縛り固まっていました。

施術の中で、様々な質問をしました。「試合に出ないことで得られることがあるとしたら何ですか?」「①自分のパフォーマンスを出しているけど選ばれないのと、②自分のパフォーマンスを出していないのに選ばれる。どっちがモヤっとしますか?」「試合に出る出ないは監督次第。何を意識すると良さそう?」など、様々な考え方があることを自己認知していきました。

この選手はとても素直に考える選手でしたので、とてもスムーズに改善していきました。スタメンで試合に出るこだわりがあるから、頑張れることやその他、良いことももちろんあります。ですが、自分を縛る信念にもなることを実感しました。色々な視点で物事を見る、様々な解釈することの重要性をとても感じました。

Clinical Commentary
PCRT創始者 保井志之による症例解説

以下は、この症例報告に対するPCRT創始者・保井志之による詳細な臨床解説です。

主訴
近い距離の投球時に指の感覚がなくなる
発症契機
中3から高1への移行期(約3週間前から)
特徴的パターン
近距離でのみ誤作動・遠投はOK
調整法
PCRT認知調整法 + AMベーシック
CGI-S(初診重症度)
7/7(最重症)
最終CGI-I(改善度)
1/7(完治 / 4回)
治療経過スケール
01

この症例の核心的な特徴

鶴見先生のこの投球イップスの症例報告は、PCRTにおける「自己同一性の脅威としてのイップス」のメカニズムが非常に鮮明に示された、教育的価値の高い症例です。わずか4回・約5週間という短期間での完治は、患者自身の素直な認知的開放性と、鶴見先生の的確な問いかけが生み出した成果です。

この症例において最も重要な特徴は以下の3点です。

  • 近い距離では指の感覚がなくなる(距離依存型の誤作動)
  • 遠い距離は投げられる(身体能力の問題ではない)
  • 暴投した直後に症状が強くなる(失敗記憶が即座にトリガーとなる)

「遠くは投げられる、近くは投げられない」——この距離依存性は、PCRT的には非常に示唆に富んでいます。近い距離の送球は、野球において「確実に決めなければならない基本プレー」であり、キャッチャーからの返球はまさにその象徴です。「基本すらできない=プライドが傷つく」という情動的意味付けが、近距離という特定の状況に紐付いた誤作動を形成していたと考えられます。

02

症例全体を貫くテーマ

この症例全体を貫くテーマは、「スタメン・キャプテンという自己同一性の防衛」です。

  • 「私はできる選手」というプライドが強い(初回:復讐心・虚栄心・恐怖)
  • 「レギュラー争いで負けたくない、下に見られるのが嫌」(第2回:警戒心)
  • 「選ばれたからには見合った活躍をしないといけない」(第2回:犠牲心)
  • 「スタメンに選ばれるか不安」(第4回:恐怖)

小3から始めた野球で、小・中と一度もスタメンを外れたことがなくキャプテンを任された——この経歴が「自分はできる選手だ」というアイデンティティを形成してきました。中学から高校への移行は、同じ「スタメン・キャプテン」であることが保証されない新たな環境への突入です。この移行期に、自己同一性の防衛として脳が誤作動信号を発動させたのが、このイップスの本質ではないでしょうか。

「試合に出られなかったらどうしよう」という不安は、試合に「出れない」ことへの不安ではなく、「できる選手である自分」という自己像が崩れることへの不安だったと考えられます。

03

反応言語の変遷が語るもの

各回で検出された反応言語の変遷を俯瞰すると、「評価・承認・プライド」というクラスターから、「自己への信頼・別の視点の獲得」へと明確に移行していく様子が見えます。

第1回
復讐心 虚栄心 恐怖
理想の先輩への憧れ、スタメンを失うプライドへの恐怖
第2回
警戒心 忠誠心 犠牲心
レギュラー争い・テンポルール・先輩への申し訳なさ → 得られることの認知へ
第3回
猜疑心 逃避 貢献
指導への疑問・先輩のイップスへの感染不安 → 自分の感覚を信じる ← 転換点
第4回
犠牲心 探究心 恐怖
休息の本音・バント不安・スタメン不安 → コントロールできることへの集中 ← 完治

初回〜第2回は「外部評価への恐怖と防衛」が中心でしたが、第3回で「自分の感覚を信じる」という内的基準への転換が起き、第4回では「監督の判断は監督次第、自分は自分のパフォーマンスに集中する」という視点の確立で完結しました。この4回の変容プロセスは、PCRTにおける認知調整の理想的な経過を示しています。

04

「距離依存性」が示すイップスの情動的構造

この症例で特に注目すべきは、「近い距離でのみ発症し、遠投は問題ない」という距離依存性です。一見すると技術的な問題に見えますが、PCRTの視点では全く異なる解釈が成立します。

イップスにおける症状の「場面特異性」は、その場面が当人にとって持つ情動的な意味によって決まります。近い距離の送球が「確実に決めなければならない基本」を意味するほど、それへの失敗が「私はできる選手」という自己像を直接脅かすのです。

— 保井志之 / PCRT創始者

暴投の直後に症状が強くなるというパターンもこれで説明できます。暴投という「失敗の記憶」が即座に「できない選手」という自己像への脅威として処理され、次の投球でその防衛反応が誤作動として出力されるのです。これはPCRTにおける「失敗記憶の即時的な誤作動形成」の典型例です。

05

鶴見先生の問いかけが生み出した認知変容

この症例で特筆すべきは、鶴見先生が各回で行った「問いかけ」の質です。単に症状を調整するだけでなく、患者自身の思考の枠組みを広げる問いが、改善の鍵となりました。

「出ないことで得られることは?」
「試合に出ること」への一点集中から、「出ないこと」の価値を発見させ、思考に柔軟性をもたらした
「①と②どっちがモヤっとする?」
「スタメンに出たい」の本質が「自分のパフォーマンスへの誠実さ」であることを自己発見させた
「何を意識すると良さそう?」
コントロールできないもの(監督の判断)からコントロールできるもの(自分のパフォーマンス)へと焦点を移した

これらの問いはいずれも「正解を与える」のではなく、「患者自身が自分の中に答えを見つける」プロセスを促しています。PCRTにおける認知調整法の本質——それは施術者が変えるのではなく、患者自身が気づくことで変わるという原則を、この症例は鮮やかに体現しています。

06

4回完治の意味

本症例はCGI-S 7/7(最重症)から4回でCGI-I 1/7(完治)という驚異的な改善速度を示しました。この速さの背景には、患者自身の「素直さ」という要因が大きく作用しています。

PCRTにおける治療速度は、患者が自分の認知パターンに気づき、それを手放す準備ができているかどうかに大きく依存します。この選手は「素直に考える」という資質を持っていたため、問いかけに対して防衛的にならず、新しい解釈を真摯に受け入れることができました。

「素直さ」は単なる性格的特徴ではありません。認知の柔軟性——つまり、自分の思い込みを一時的に脇に置いて、別の視点を試してみる能力——それが、PCRTの効果を最大化する最も重要な患者側の資質です。

— 保井志之 / PCRT創始者

鶴見先生がその素直さを丁寧に引き出し、問いかけを通じて認知の変容を促したことが、この4回完治という結果につながりました。


07

フィードバック(深化のための観点)

Essence of this case
「私はできる選手だ」というプライドが、新しい環境での自己同一性の脅威にさらされた時、脳が発動させた防衛反応——それが投球イップスの実態でした。問いかけを通じて別の視点を獲得し、「自分のパフォーマンスに集中する」という内的基準を手にした時、症状は必要でなくなったのです。

スポーツにおけるイップスは「技術の問題」でも「精神力の問題」でもありません。特定の情報環境に紐付いた誤作動記憶——この視点を4回で鮮やかに示してくれた症例として、非常に優れた報告です。鶴見先生の的確な問いかけと、患者さんの素直な認知的開放性が生み出した、模範的な改善事例です。

PCRT 症例報告 | 鶴見 茉由(接骨院くら)

心身条件反射療法(PCRT)| Life Compass Academy

投球イップス|鶴見茉由先生 院内発表

院内発表 / 接骨院くら

投球イップス

投球動作における心身条件反射の臨床的考察

Presenter 鶴見 茉由 先生
Venue 接骨院くら 院内発表
Date 2026年6月1日

▲ プレゼンテーション動画(再生ボタンを押してご覧ください)

鶴見 茉由 先生
接骨院くら

発表概要

投球イップスは、技術や筋力の問題ではなく、無意識下の誤作動信号によって本来できていた動作が乱れる症状として捉えられます。本発表では、投球動作に焦点を当て、心身条件反射の視点から症状の背景と臨床アプローチを考察します。

院内発表として、実際の臨床経過を交えながら、評価のポイントと施術の流れを共有しています。

接骨院くら 院内発表

2026年6月1日 / 発表者:鶴見 茉由 先生