サッカー・イップス
サッカーイップス
14歳 男性(中学生・FW)| 6回通院 | 著明改善
報告者・施術院情報
症例要約
初回より認知調整を実施。第4回目を転換点として症状スケールが急速に改善。症状の程度10→1、予期不安10→1へと改善し、試合中における自由なプレーが可能となった。
| 指標 | 初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 症状の程度(イップス全体) | 10 | 9 | 9 | 7 | 4 | 1 |
| 症状に対する予期不安 | 10 | 10 | 9 | 9 | 2 | 1 |
| CGI-I(改善の程度) | − | 4 | 4 | 3 | 1 | 1 |
| CGI-S(初診時重症度) | 6(初回のみ) | |||||
本症例は、プロサッカー選手を目指す中学生男子で、スタメンから外されたことを契機として、試合場面において突然走れなくなるイップス症状を呈した患者である。所属チームの練習では概ね問題なく走ることができるにもかかわらず、試合になると身体が硬直・誤作動を起こすという特徴的な症状パターンを示していた。
サッカーチームにおいてFWのポジションでレギュラー(スタメン)として試合に出場していたが、ある時期を境にスタメンから外されるようになり、それ以降、試合場面において顕著なパフォーマンスの低下が生じた。練習中は問題なく走れるにもかかわらず、試合になると身体が緊張・硬直し突然走ることができなくなった。
向上心が高く練習に対して真摯に取り組む選手であり、所属チームの活動に加えて他のサッカースクールにも参加していた。計6回の施術を実施したところ症状の著明な改善が認められ、試合中での自由な身体運動が取り戻せた。
| 症状の程度 | 10/10 |
| 予期不安 | 10/10 |
| CGI-S(初回症状の程度) | 6/7 |
| 検査部位・動作 | 調整前 | 調整後 | ||
|---|---|---|---|---|
| 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | |
| 基本バランス:右骨盤・右肩 | ○ | ○ | ||
| 試合中の走れていない場面をイメージ | ○ | ○ | ||
| 試合中の消極的なプレーの場面をイメージ | ○ | ○ | ||
| 情報系EB 検査部位・動作 | 調整前 | 調整後 | ||
|---|---|---|---|---|
| 陽性 | 陰性 | 陽性 | 陰性 | |
| 試合中の走れていない場面をイメージ(情報系) | ○ | ○ | ||
| 情報系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| 試合中の走れていない場面をイメージ(情報系) | 喜び | 持久走のタイムが伸びて学年で1位になった →自信がついた | 陰性化 |
| 復讐心 | コーチから評価されているチームメイトの言動に腹が立つ →どうでもいい事だ | 陰性化 | |
| 利己心 | ミスをするとスカウトの目が気になる →消極的なプレーになってしまう →ミスをしても何回もチャレンジすることが大事 | 陰性化 |
- 前回施術後、練習では走れたが試合になると全く走れなかった。
- ミスを恐れてボールを受けることができなかった。
| 症状の程度 | 9/10 |
| 予期不安 | 10/10 |
| CGI-I(初回比較) | 4/7 |
| 情報系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| 試合中の走れていない場面をイメージ(情報系) | 逃避 | 今のままでは希望の進路に進めない →信頼しているコーチの存在 | 陰性化 |
| 忠誠心 | 信頼しているコーチ →プロになるためにはチャレンジする精神が必要 | 陰性化 | |
| 忠誠心 | チームのために前からプレスをかける →プレスをかけてボールを奪えるとシュートが打てる | 陰性化 | |
| 羞恥心 | 失敗を恐れてチャレンジできていない →何回かチャレンジすれば成功する | 陰性化 |
- まだ思うような動きができない。
| 症状の程度 | 9/10 |
| 予期不安 | 9/10 |
| CGI-I(初回比較) | 4/7 |
| 情報系・エネルギー系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| 試合中の走れていない場面をイメージ(情報系)+空間ブロック(エネルギー系) | 自立心 → 成長 | 信頼できているコーチとの出会いで成長できた →プロという目標があるので何をすべきかを考えられる | 陰性化 |
| 復讐心 → 羞恥心 | 試合で身体が思うように動かずイライラする →できない自分が恥ずかしい | 陰性化 |
- 試合前半は体の動きはまずまずだったが、後半になると体が全く動かなくなった。
- 右のアキレス腱を軽く触れるだけでも痛みがある。
| 症状の程度 | 7/10 |
| 予期不安 | 9/10 |
| CGI-I(初回比較) | 3/7 |
| 情報系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| 試合中の走れていない場面をイメージ(情報系) | 自尊心 | 信頼しているコーチが実力を認めてくれている | 陰性化 |
| 利己心 | 信頼しているコーチとの関係性を守りたい →ちゃんとプレーができていないと見放されてしまう | 陰性化 | |
| 羞恥心 | コーチが熱心に指導してくれているのに恥ずかしい →走れていない自分が悔しい | 陰性化 | |
| 成長 | 理想の得点パターンをイメージしてもらう | 陰性化 |
- 施術後、公式戦があり思うように走ることができた。
- 試合で球際の競り合いで強く当たれなかった。
| 症状の程度 | 4/10 |
| 予期不安 | 2/10 |
| CGI-I(初回比較) | 2/7 |
| 情報系・エネルギー系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| 試合中の球際の競り合いをイメージ(情報系)+大腸経(エネルギー系) | 成長 | ヘディングなどの競り合いでも逃げないように成長したい | 陰性化 |
| 団結心 | 守備のことで監督に注意される →監督の言う通り守れると勝率が上がる | 陰性化 |
- 試合でも身体は思うように動けているし競り合いも強く当たれている。
- 所属チームとは別のサッカースクールでのゲーム形式の練習で動きの悪さを感じた。
| 症状の程度 | 1/10 |
| 予期不安 | 1/10 |
| CGI-I(初回比較) | 1/7(著明改善) |
| 情報系・エネルギー系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
|---|---|---|---|
| サッカースクールでの練習イメージ(情報系)+大腸経(エネルギー系) | 期待 → 存在感 | サッカースクールの中でもっと目立った存在になりたい →自信につながる | 陰性化 |
| 利己心 | 下手だと思われたくない →コーチからプライドが高いといわれたことがある | 陰性化 |
本症例はサッカーにおけるイップスの一例である。本症例のイップス症状は、練習場面では問題なく走行できるにもかかわらず、試合という特定の環境下においてのみ身体運動の誤作動が生じるという特徴的なパターンを示していた。
本症例の改善において特に重要であったのは、第4回目の施術における転換点である。同回では右アキレス腱疼痛に対してAMでは変化が得られなかったが、PCRTの振動調整法を施したところ瞬時に疼痛が消失し、患者が「症状は脳の誤作動によるもの」であることを体感的に理解したと思われる。この納得・信頼の形成が、信頼しているコーチとの関係性に起因する「自尊心」「利己心」「羞恥心」への認知調整とあわせて、第5回以降の症状スケールの急激な改善をもたらした(症状の程度:7→4→1、予期不安:9→2→1)。これはPCRTにおける患者の信頼・納得形成が治療経過を左右しうることを示唆している。
さらに、第6回終了時の特記事項として、母親の目から見ても息子のプレーの変化が明らかであり、「安心して見ていられる」との言葉とともに母親自身の表情にも明るい変化が観察された。これはPCRTによる認知調整の効果が患者本人の内面にとどまらず、周囲の目にも明らかな行動変容として現れていることを示すとともに、患者を取り巻く家族の情動的緊張まで緩和されたことを示唆している。
本症例より、スポーツにおけるイップス症状は、特定の情動記憶・場面情報に紐付いた無意識下の認知・感情反応が脳の誤作動として身体運動に表出したものであり、PCRTによる認知調整が有効に機能する可能性が示唆された。今後もさらに症例を積み重ね、その効果と適応を検討していきたい。
以下は、この症例報告に対するPCRT創始者・保井志之による詳細な臨床解説です。
この症例の核心的な特徴
森田先生のこのサッカーイップスの症例報告は、PCRTにおける「特定の情報環境下でのみ発動する無意識的な身体誤作動」のメカニズムが非常に分かりやすく示された、教育的価値の高い症例です。単なる「緊張して走れない」という現象として捉えるのではなく、「試合」という情報環境が何を意味しているのか——評価・承認・コーチとの関係性・将来への期待——という情動的背景を丁寧に掘り下げている点が印象的です。
まず、この症例において最も重要な特徴は以下の3点です。
- 練習では走れる(誤作動なし)
- 試合になると走れなくなる(誤作動あり)
- FWポジションの積極的なプレーが特に困難
これはPCRT的には非常に典型的な「状況依存型の身体誤作動」のパターンです。「脚そのもの」「筋力や体力」には問題がないにもかかわらず、試合という特定の情報環境が"引き金"となって、脳が誤作動信号を出力している状態と考えられます。
練習と試合の違いは何か——それは「評価される」「見られる」「スカウトの目がある」「コーチから認められるかどうか」という心理的情報の有無に他なりません。
症例全体を貫くテーマ
症例全体を通して一貫して見えてくるのは、「条件付きの承認欲求」を背景とした情動パターンです。
- 「コーチから評価されたい(自尊心・自己価値)」
- 「ミスをするとスカウトの目が怖い(利己心・将来不安)」
- 「チームメイトへの複雑な競争心・復讐心」
- 「コーチとの関係性を失いたくない(忠誠心・羞恥心)」
この患者さんは、プロを目指して真摯に取り組む向上心の高い選手です。しかし、その向上心の背後に「評価・承認を得ることで自分の存在価値を確認しようとする」という無意識的な構造が埋め込まれていたと考えられます。スタメンから外されたという出来事が、この構造を揺るがす"引き金"となり、それ以降の試合場面において、脳が"危険シグナル"を発動させ続けていた——それがイップスの実態だったのではないでしょうか。
反応言語の変遷が語るもの
各回で検出された反応言語の変遷を俯瞰すると、非常に興味深いパターンが見えてきます。初回から第4回まで繰り返し出てくるのは「コーチ」というキーワードと、それに紐付いた「評価・承認・羞恥」の情動クラスターです。
このコーチとの関係性こそが、この患者の情動的核心であったことが分かります。第4回目でアキレス腱疼痛が消えたと同時に、患者はおそらく「コーチへの過度な依存的適応」から少し自由になり始めたのだと思われます。
第4回目の転換点が示すPCRTの本質
この症例で最も注目すべきは、第4回目の施術において右アキレス腱疼痛がAMでは変化せず、PCRTの振動調整法によって瞬時に消失したという出来事です。
この瞬間は、単なる「疼痛の消失」ではありません。患者自身が"体感"として「症状は脳の誤作動によるものである」ことを理解した瞬間です。
PCRTにおける治療効果は、施術者の技術だけで決まるのではありません。「患者自身が自分の症状のメカニズムを、身体感覚として納得・信頼する」という体験が、その後の改善を加速させる最大の因子です。
— 保井志之 / PCRT創始者この症例では、その体験が第4回目に生まれたことで、第5・6回目の劇的な数値改善(症状10→4→1、予期不安10→2→1)へと直結しています。これはPCRTにおける「信頼形成が転換点になる」という臨床的真実を、数値で明確に示してくれた事例です。
予期不安の変化が示すイップス回復の本質
この症例でもう一つ重要な数値の変化は、予期不安の変化パターンです。症状スケールが7/10に改善した第4回目時点でも、予期不安は依然9/10と高いままでした。そして第5回目で「試合でちゃんと走れた」という実体験が生まれた直後、予期不安は一気に9から2へと急落しています。
第4回目の認知調整が下地を作り、第5回目の実体験がそれを完結させた——この症例はそのプロセスを見事に記録しています。
周囲(母親)の変化が示す情報環境への波及
第6回目の特記事項として、母親の目から見てもプレーの変化が明らかで「安心して見ていられる」という言葉と、母親自身の表情の明るい変化が記録されています。
イップスという症状は、患者本人だけでなく、周囲の家族にも慢性的な心理的緊張をもたらします。PCRTによる改善が患者本人の内面に留まらず、家族という情報環境全体の緊張緩和にまで波及したことは、PCRTの効果が「個人の認知変容」に留まらない可能性を示唆しています。
「安心して見ていられる」——母親のこの一言が、症状改善が患者の情報環境全体に波及したことを端的に示しています。
— 第6回目 特記事項よりフィードバック(深化のための観点)
「スタメン落ち」という出来事の情報系EB検討の余地
「コーチ」という特定の人物との関係性をより深く展開できると良い
第6回目の別サッカースクールでの陽性化の意味を深めると良い
PCRT理論用語での再記述の提案
評価・承認によってのみ自己価値を確認しようとしていた少年が、コーチとの関係性も含めた情動的な縛りから解放され、試合という場でも自由に身体を動かせるという体験を取り戻していった過程——これがこの症例の本質です。
スポーツにおけるイップスは、パフォーマンスの問題ではなく、「特定の情報環境に紐付いた無意識的な情動反応が身体誤作動として現れたもの」——この視点を明確に示してくれた症例として、非常に優れた報告です。森田先生の丁寧な記録と認知調整の積み重ねに、敬意を表します。