「記憶」からみた痛みの発生源

「痛み」と「記憶」と「三層構造」

 
末梢(患部)に傷害や炎症がある場合、警告信号として知覚神経、脊髄神経を経由し、脳で「痛み」として感じます。通常、傷害部位の炎症などが修復されれば、それに伴って痛みも修復します。しかしながら、「痛み信号」にともなう神経回路が、「誤作動」として脊髄や脳に記憶化されている場合、その苦痛は慢性化します。長期記憶は非陳述記憶と陳述記憶に分類されます。身体で覚える非陳述記憶は、「手続き記憶」ともいわれ、頭(脳)で覚える陳述記憶は、「出来事記憶(エピソード記憶)」と「意味記憶」に分類されます。
PCRTの臨床研究で得られた、「記憶」と「脳の三層構造」との関係性は表の通りです。

 

 
通常、腰痛がある場合、急性期の腰痛では、腰を強く捻るなどの捻挫のような「ケガ」で痛みを感じさせる発痛物質が末梢(患部)で体内に放出され、自律神経終末から「痛み信号」が発生することがあります。その場合、「痛み信号」は「脊髄」を経由して、感覚経路の中継点である「視床」を介して、「体性感覚野」で痛みとして感じます。痛み信号が身体や脳に記憶化されなければ、患部の傷害や炎症が消失するとともに痛みも消失します。
 

 

 
患部の傷害や炎症が消失しても痛みが慢性的に継続する場合があります。それはなぜでしょうか?それは、体に痛み信号が記憶されているからです。そのような記憶を「過誤記憶」といい、「痛み信号」が、身体と脳に「誤作動」として記憶されているのです。慢性化された、神経系の過誤記憶を脳の可塑的変化ともいいます。痛みの苦痛に関わる脳内の神経回路が痛みの慢性化(学習記憶)に伴って可塑的に変化し、苦痛を持続的に生じやすくなるという本質的な原因も脳科学的に明らかになってきました。長期記憶には、身体で覚える非陳述記憶(手続き記憶)と頭(脳)で覚える陳述記憶(エピソード記憶と意味記憶)がありますが、慢性化するということは、「手続き記憶」として、末梢からの「痛み信号」のパターンが記憶化された結果であるといえます。
 

 

 
通常の「痛み信号」は、患部(末梢)から脊椎を経由して脳に伝えられますが、人間は創造性豊かな生き物であるため、脳で様々な学習をし、それを出来事(エピソード)として記憶します。
例えば、過去につらい腰痛の経験をした場合、その出来事は、「エピソード記憶」や「意味記憶」として脳に保存され「私は腰痛持ちです」というように、過去の記憶を自分の脳にレッテル貼りをしてしまいます。
すると、脳では「末梢」からの痛み信号ではなく、脳内で創られるフォールスメモリー(過誤記憶)の痛み信号として、痛みを生じさせます。これは、「陳述記憶」に関係し、大脳新皮質、すなわち理性脳に関係すると考えられます。
このような「記憶」に関係する「痛み信号」から生じる誤作動の記憶は、PCRTの施術によって神経回路の記憶を上書きすることで、誤作動の記憶が書き換えられ、慢性痛の症状が改善されます。