アトピー性皮膚炎〜母と子の関係性〜

 
報告者:西埜 義則(にしのカイロプラクティック院

 

【患者】 1才6ヶ月 女の子
【既往歴】 生後8ヶ月で滲出性中耳炎の診断。鼓膜切開の後、チューブ挿入を勧められるが、当院でのアクティベータ・メソッド(以下AM)による施術で完治。
【主訴と治療歴】 小児科にてアトピー性皮膚炎と診断。その症状は全身に及んでいるが、特に顔、頚部、背部、腹部にジュクジュクした湿疹とひっかき傷が多数みられる。
皮膚に強い炎症が生じている時には、抗炎症作用と免疫抑制作用を備えた副腎皮質ステロイド薬の外用薬を使用。炎症が鎮まれば、皮膚のバリア機能を強くするために保湿剤外用薬にてスキンケアをおこなっている。
また、血液検査の結果から、アレルギーを起こすとされる食品(玉子、牛乳、米、小麦)を食べさせないように除去食による食事療法を実践している。

【検査】 心身条件反射療法(以下PCRT)の「神経反射による筋力抵抗検査」と「言語神経反射検査」をおこなう。患者が幼児ということで、言語による十分なコミュニケーションが図れないことから、言語神経反射検査をおこなうときには、母親の身体を用いた代理検査を併用した。

【PCRT治療】 先ずは「ハード(肉体)面」の治療として、PCRTの神経反射による筋力抵抗検査(フィンガーマッスル検査)で、上部頚椎部と中部胸椎部にエネルギーブロックを評価。1週間に2回の来院を計画し、アクティベータ器にてアジャストメントをおこなった。

4回目の来院で、広範囲の炎症と湿疹が治まったことを確認。しかし、不機嫌な様子と身体をかく仕草がみられた。日中の痒みは治まってきているが、就寝時の痒みが増し、2時間おきに目を覚ますことが多くなるとの報告。
母親も重なる寝不足と疲労が顕著な様子。母親にアクティベータ・メソッドによる治療をおこなった後、子供への治療をおこなうことにした。 母親の治療が終了し、母親の顔に笑顔が戻った瞬間に、幼児の顔にも安堵感がみられ、身体をかく手が治まった。

続いて、子供を抱いたままで母親をベッドに仰臥位で寝かせて、母親の身体を用いた代理検査による言語神経反射検査をおこなった。母親に「子供の就寝時の痒み」をイメージさせて、言語神経反射検査をおこなうと、顕著な陽性反応がみられたので、PCRTの「ソフト(精神)面」の治療をおこなうことにした。

PCRTパターンチャートから、「感情」→不安、「五感」→視覚→人、「分野」→家族→母親という情報が得られた。これらのことから、どういったことが「就寝時の痒み」に影響しているのかを詳細に分析すると、「母親の困った顔を見ること」に、不安感を抱いていることがわかった。これを、PCRTでは症状の原因になっている感じ方として、「緊張パターン」と呼んでいる。

通常のPCRTでは、「緊張パターン」に対して、同じ事柄でもとらえ方を変えることで、身体に影響しないような感じ方を「リラックスパターン」と呼んで、脳・神経系へ新しい情報の上書きをおこなう。しかし、今回のケースでは幼児ということもあって、明確な「リラックス・パターン」を分析することは困難であったため、「緊張パターン」のみのアジャストメントをおこなった。

そして、子供の治療と平行して、母親の「疲労」に対しての原因をパターンチャートから分析すると、「五感」→視覚→人、「味覚」→食事全体、「分野」→家族という情報が得られた。詳細な分析をおこなうと、生活上のストレスと食事療法の是非についてという「緊張パターン」が判明した。

母親の「緊張パターン」を分析している最中、子供が身体を痒がり始めた。このように、子供は言葉の意味が理解できなくとも、母親の抱いている不快な心の様子を肌で感じて、精神的ストレスを共感しているようである。
食事療法の是非については、感情チャートから「不信」と、いうキーワードが得られた。「このまま除去食を続けることで、アトピー性皮膚炎が良くなるのか?」と、いう感情である。食事療法については、特定の食品が患者に適合しているのかを、PCRTの「全体的適合検査法」を用いて検査をおこなった。
普段から食べさせている食品と、除去している食品を一つずつ子供に持たせて、神経反射による筋力抵抗検査を代理検査にておこなうが、不適合を示すものはみられなかった。

この検査結果により、母親から除去食へのこだわりが消えて、安心して何でも食べさせようという気持ちの変化とゆとりができた。アトピー性皮膚炎の子供を持つ母親は、往々にしてインターネットや専門雑誌などで、さまざまな情報を得ていることが共通している。また、アトピー性皮膚炎の子供を持つ母親達のコミュニティでも情報交換がされている。

「○○はアトピーに良くない」と、いう「情報」が、アレルギー反応を生じさせる病的な条件反射を強くさせるようである。つまり、アレルギーという知識と情報が、アレルゲンの本質的原因となることが多いようである。アレルギー反応の有無に関わらず、「この食品は、アトピー性皮膚炎に良くない。」と、いう固定観念が先にあり、その食品に対する潜在意識がアレルギーを引き起こす原因になっていたということである。

以上のことを踏まえて、「生活上のストレス」と「食事療法の是非について」の緊張パターンを、身体に影響しないように視点を切り替える治療をおこなった。

【治療結果】 3回目までは子供へのハード面への治療で、4回目に母親の治療と同時におこなった結果、「就寝時の痒みが治まって、朝まで起床することはなかった。」と、翌朝に報告を受けた。その後、継続して同様の治療をおこなったが、3週間後には全身の皮膚炎はまったくなくなり、幼児らしい潤いのある綺麗な肌に回復した。現在、薬剤によるスキン・ケアはおこなっていないが、再発の様子はみられない。母子とも健康管理として、当院にて定期的にメンテナンス治療をおこなっている。

【考察】 アトピー性皮膚炎は、遺伝的要因や水、空気、食物、ダニ・ハウスダスト、精神的ストレスなどの環境要因が影響しているともいわれているが、明確な原因の特定はされていない皮膚疾患である。

大人のアトピー性皮膚炎には、精神的ストレスの関与は知られているが、子供のアトピー性皮膚炎には遺伝的な要因が強いと考えられている。しかし、子供には子供なりの精神的ストレスを抱えているのであり、これまではそれを明確にできなかっただけである。

人間の神経系と内分泌系、そして免疫系は、互いに有機的なネットワークを形成して、情報伝達の仕組みを共有している。そして、外部からの物理的、科学的、精神的ストレスに対抗して、身体が常に安定した状態を保つように働いてる。
不安、怒り、嫌悪などのネガティブな感情だけでなく、喜び、愛情、勝利などのポジティブな感情が過ぎたときにも、脳の働きに影響を及ぼすことが、PCRTの研究会で発表されている。

さまざま感情が脳の視床下部に伝わることで、さまざまなホルモンを介した反応が起こり。その結果、免疫の中枢に影響が及んで、免疫細胞が必要以上に活発となることで、痒みの物質である血中ヒスタミンを上昇させると考えられる。
今回のケースにおいて、母親は我が子の心身状態と欲求を、常に敏感に感じ取ろうとしていることと同様に、子供は母親の呼吸、仕草、表情、態度、声のトーンなどから母親の心理情報を読み取ろうとすることが考えられる。

母と子の関係には、言語によるコミュニケーションを交わさなくとも、非言語コミュニケーションを通じて、お互いの快・不快、喜怒哀楽を伝え合っている。このとき、子供にとって不快な情報が得られたならば、それは大きな精神的ストレスになり得る。その精神的ストレスが、痒みの症状を誘発したと考えることができる。