キャッチャー返球イップス
症例テーマ:
●キャッチャー返球イップス
報告者情報:
●氏名:倉持怜史
●開業歴:10年
●PCRT歴:4年
●施術院名:接骨院くら
●初診年月日:2023年4月8日
●報告期日:2023年8月31日
症例要約:
結果判断: 完治 or 未完治 |
完治 |
治療期間: | 2023年4月8日〜2023年8月5日 |
通院回数: | 10回 |
一回の治療期間 | 45分以内 |
治療経過の良し悪し: | 良好 |
治療回数毎のスケール表
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 | 7回目 | 8回目 | 9回目 | 10回目 | 11回目 | |||||||
症状の程度 | 8 | 8 | 8 | 7 | 7 | 3 | 3 | 5 | 1 | 0 | 1 | ||||||
症状に対する予期不安 | 10 | 10 | 10 | 10 | 10 | 7 | 7 | 7 | 3 | 2 | 1 | ||||||
CGI-I(改善の程度) | 4 | 4 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | |||||||
CGI-S(初診時の重症度) | 5 | ←初回時のみ入力 |
はじめに:
社会人野球を楽しんでいる選手。
患者の愁訴:
- 近距離のスローイング時に球がいろんな場所へ荒れてしまう
- ピッチャーに返球する際に上手く投げられない
- 投げる際に指の感覚がない
- 投げる際に滑る感じ
- 初めての方とのキャッチボールはよりイップスになる
患者情報:
- 年齢:29歳
- 性別:男性
- 種目:野球
- 競技レベル:社会人野球
- 患者の特徴(簡単に):人を気遣う 自信がない ネガティブ思考 優しい人柄
- 発症時期:5年ほど前
発症からの経緯:
もともとコントロールが良い方ではなかったが4〜5年前から近距離のスローイイング、ピッチャーへの返球が安定しなくなった
これといったきっかけは不明(本人の記憶)
初回〜通院施術回数毎の記録
初回:R5、4月8日
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
近距離へのスローイングイメージ | ○ | |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
※初回は、PCRTイップスの考え方、メカニズム、治療の方法を説明
PCRTのコンセプトを理解して頂くことに専念し、AMベイシックのみの施術
2回目:7日後来院 R5、4月15日
患者コメント(愁訴):
- 初回同様
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
近距離のスローイングイメージ | ○ | |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック+脊柱アドバンス
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
近距離のスローイングイメージ前腕骨EB | 虚栄心 | 綺麗なフォームで投げたい、そう見られたい →コントロールが良いと見られたい →強い球が投げられると見られたい |
陰性化 |
ピッチャーへ返球イメージ | 警戒心 | ピッチャーの胸元に返球しないと →その思いが出る理由は? →ピッチャーがイライラしないで気持ち良く投げてほしい →ピッチャーのパフォーマンスが悪くなり勝敗につながる |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
近距離のスローイングイメージ | ○ | |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
3回目:7日後来院 R5、4月22日
患者コメント(愁訴):
- 明日、大会です(キャッチャーで出場予定)
- 症状は前回同様
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
ピッチャーへ返球イメージ 前腕骨骨系 |
警戒心 | ピッチャーへ返球 | 陰性化 |
同上 | 犠牲心 | 野球 →エラーしないように →ミスしないように →バッティングでも守備でも →野球でガマンしていることがあるとしたら? →今のチームは上手な選手が多いからエラーをすると出場機会が減ってしまう →少ないチャンスで結果を出さないと |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
4回目:9日後来院 R5、5月1日
患者コメント(愁訴):
- キャッチボール、キャッチャーの返球が前回から安定してきた
- 胸元へ投げられるようになった
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
ピッチャーへ返球イメージ 前腕骨骨系 |
虚栄心 | チームメイトへ向けての虚栄心→キレイなフォームで投げたい そう見られたい →キレイなフォームとは? →野球のYouTubeで参考にしているフォーム →リリースの際にボールに指がひっかかり強い球が投げられる |
陰性化 |
同上 | 執着心 | 強い、速い球を投げたい 手首のスナップを早くを意識 →そのこだわりが出る出所は? →小学生の頃、下級生で速くて強い球を投げる良いピッチャーがいて、そのピッチャーは手首のスナップを早くを意識していた |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
5回目:19日後来院 R5、5月20日
患者コメント(愁訴):
- ランナーを背負ってのピッチャーへの返球でイップス
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
ランナーを背負ってピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
ランナーを背負ってピッチャーへ返球イメージ 前腕骨骨系 |
犠牲心 | キャッチャー →もともと外野手で、チームの事情でキャッチャーをすることに →本音ではキャッチャーをやることに壁があるのかも →キャッチャーというポジションに責任を感じている →キャッチャーをどう感じている? →キャッチャー次第で勝敗が決まるぐらい責任あるポジション |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
ランナーを背負ってピッチャーへ返球イメージ | ○ |
6回目:20日後来院 R5、6月10日
患者コメント(愁訴):
- 6/4試合でイップス でなかった(キャッチャー)good 久しぶりに気持ちよく試合ができた
- 練習のキャッチボールで新しく入った方とのキャッチボールでイップス
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
新しく入った方とのキャッチボールイメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
新しく入った方とのキャッチボールイメージ 辺縁系 |
義務 | 新しく入った方に気を使わないと →よく思われないと →嫌われないように コントロールが良くないので嫌われないように気を使うべき →胸元に投げるべき →中学生の頃の経験が影響 |
陰性化 |
同上 | 自尊心 | 守備 →守備に対して誰かと比べるクセがあり、自分が劣っていると思う |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
新しく入った方とのキャッチボールイメージ | ○ |
※6回目の施術の考察
上記には記してないが『練習前のキャッチボールの目的は?』と質問させて頂いた。
言葉につまって、出てこなかったが『体、肩を温める準備です』と。キャッチボールの意図を本人なりに認識した様子。
7回目:7日後来院 R5、6月17日
患者コメント(愁訴):
- 前回の新しく入った方とのキャッチボール、改善
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
ランナー3塁でのピッチャーへの返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
ランナー3塁でのピッチャーへの返球イメージ 大脳辺縁系 |
義務 | 速い球を返球しないと →ピッチャーの後ろへ投げてはだめ →点数が入ってしまう |
陰性化 |
同上 | 義務 | ①考えながらプレーするべき →小学生の頃に監督にいつも言われていた ②頭の横から投げるべき ③胸を意識して投げるべき |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
ランナー3塁でのピッチャーへの返球イメージ | ○ |
8回目:7日後来院 R5、6月24日
患者コメント(愁訴):
- 練習、問題なし
- 6/18試合で最初は大丈夫だったが、3イニングから5球に1球怪しい
- リリースで力が入っていない感じ
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
6/18のピッチャーへの返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
6/18ピッチャーへの返球イメージ 大脳辺縁系 |
劣等 | 相手は知り合いが多いチームでみんな上手 →大学でも活躍していた人ばかり →自分と相手選手を比較し →下に見られている感じがする →対等に扱ってほしい(心の声) |
陰性化 |
劣等 | 他者と自分を比較する思考 →その出所は →21歳過去ー仕事ー同期の仲間 →同期入社の同僚と同じ仕事をしていたが 彼は器用で自分は不器用。 自分はできるようになるのに時間がかかる。上司からもそのように評価されることが多く、知らぬ間に、人と比べることが増えた |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
6/18ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
※8回目の施術の考察
野球とは違う内容が認知調整法で出てきた。
仕事での出来事、習慣が知らぬ間に本人の思考の思考のクセとなっていたことに気が付く
9回目:14日後来院 R5、7月8日
患者コメント(愁訴):
- 試合でキャッチャーをしたが良好
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
より近い距離でのピッチャーへの返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
より近い距離でのピッチャーへの返球イメージ 大脳辺縁系 |
存在感 | キャッチャーとして →チームとしての存在感(50%) |
陰性化 |
より近い距離でのピッチャーへの返球イメージ 大脳皮質系 ①意味記憶(情報) |
①投球フォーム、技術の問題 ②イップスは治りにくいという情報 →心、メンタルが関係しているから |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
より近い距離でのピッチャーへの返球イメージ | ○ |
※9回目の施術のポイント
意味記憶(情報)でイップスは『心、メンタル』が関係するから治りにくいという意味づけがあった。
『心、メンタル』は捉え方、考え方次第で変化するので、そのスイッチが変わればすぐに良くなる。とアドバイスさせて頂いた。
10回目:1ヶ月後来院 R5、8月5日
患者コメント(愁訴):
- イップス症状改善
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
ピッチャーへ返球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
※症状改善し、治療一区切り。
これからは、定期的な脳、神経機能のメンテナンスをすることをおすすめした
考察
キャッチャーの返球イップス。
当初はキャッチボールでもイップスが出るため、練習、試合で困っている選手でした。
キャッチャーに対する彼なりの『義務』があり、キャッチャーというポジションに対する『責任』を大きく捉えすぎ、自分を追い込んでいた様子。
ポイントは8回目の施術。
PCRT認知調整法で野球とは違う内容が出てきました。
劣等ー仕事関係
本人の中で、それがイップスに繋がっている『思考のくせ』と認識した様で、納得した様子で帰宅されました。
普段の生活から、誰かと自分を比較するクセであったり...。それが、イップスの信号となっていたのかと。
人は今までの習慣、環境がいつの間にか本人の『思考のくせ』となり、その思考があたかも当然かと思い込み(信念)が強くなっていくことがある。
イップスの原因は人それぞれで、多岐にわたる。
それぞれが同じ人生を歩んでないのですから、もちろん『信念』『価値観』『感情』もそれぞれ違いがあって当然。
それぞれのイップスはどのような心の信号が混線しているのか?
それに選手が気がつくことが大切であり、それによって本人の『思考』に変化が生まれる。
気づきによってイップスが治るのですから、イップスに関係する誤作動記憶をいかに引き出すか。
そして、その誤作動記憶、信号が変化するかが鍵となる。
認知調整法で凝り固まった信念、混線している信号をいかにほぐすかが鍵となる。
そのために、PCRT認知調整法はとても有効であると、臨床を通じて分かる。
大切なことは施術者の自分が深くPCRTを理解すること。
そして施術中の『質問力』『コーチング』。
それらを高めていくことで患者の改善率も上がっていくと感じる。