腰椎分離すべり症

 
報告者:土子 勝成(つちこカイロプラクティック

 

【患者】 40歳 女性
七年前に腰椎分離すべり症の診断
【症状】 痛みが強く座位でのカルテ記入が困難。伸展運動は〇度。咳をしても痛む。歩行は可能だが、ガニ股で腰に手を当てて歩いている。起き上がる動作に対し痛みが強い。寝返りは問題ないが、お尻をずらす動さで痛みあり。両下肢に若干の痺れ。ただ毎年冬にはスキーに行っている。これまで整体、鍼灸、カイロプラクティック、整形外科などドクターショッピングをしたが、一向に変化はなかった。

 【インフォームドコンセント】 女性は腰椎分離すべり症が治らないと、腰痛も改善しないと思っていた。しかし、画像診断による見解が全てではないこと、分離すべり症であるにも関わらず、スキーなどの激しい運動が出来ていることの矛盾、レッドフラッグ徴候がないことを丁寧に説明し、分離すべり症が腰痛の原因でないことを理解してもらった。もし、分離すべり症が原因であるなら、馬尾神経圧迫はすぐに起こり、レッドフラッグ徴候をきたすことになるからである。

【治療】 トータル五回
一回目はアクティベータ・メソッド(以下AMと略す)のみ行った。痛みに大きな変化はなく、起き上がるときの恐怖心が強いことが分かった。
二回目から心身条件反射療法(以下PCRTと略す)を行った。まずは、仰臥位でヒザを九〇度に立て、左右への回転と伸展の動きで痛みを確認した。(以下、仰臥位検査と略す)次に、筋力が正常であった左中殿筋を利用して、痛みのイメージにより筋力低下を引き起こすことを体感してもらった。(言語神経反射検査)そのことを踏まえ、右腰方形筋の痛みを引き起こしている緊張パターンを検査した。すると、ソファーから立ち上がれないほどの痛みの経験や会社での社員の声に緊張パターンがあった。これを体に影響しないように切り替えて、深呼吸と共に丹田への振動刺激を加える施術を行い開放した。(以下切り替えて開放と略す)。この切り替えにより、仰臥位検査で右腰方形筋の痛みに軽減あり。切り替え開放しただけで、痛みに変化があったことに対して、女性は大変驚いていた。
この方法でトータル五回、緊張パターンを反応で確認し、切り替え開放する施術を行い、その後AMを行った。五回の治療後、痛みはすべて消失し、仕事中も痛みの再現なく過ごされている。

【大きな切り替え】 三回目のPCRT時に、痛みや病気に対する疾病利得があった。それは小学生の頃、疲れやすい体調を親に訴えるが、理解されず逆に叱られたが、それは実は入院するほどの病気で、病名がついた時にほっとした経験があった。それと今回の分離すべり症も同じような捕え方をしていた。そのような自分を受け入れて認識すると、体に影響しない反応を示した。そこで切り替え開放した。この切り替えの後から、仰臥位検査での回転、伸展共の痛みが消失。本人も腰痛が一変したとの事であった。
四回目のPCRTでは、起き上がる時の恐怖心の中に、腰の不安定な働きのイメージで緊張パターンがあった。これは、分離すべり症の画像が映像として鮮明に記憶されており、自分の腰は不安定で壊れやすいとイメージされていた。これを、インフォームドコンセントで話した内容や、ご自身で感じる自分の腰痛の矛盾点を利用し、腰の筋肉は柔軟でしっかり支えられているイメージに切り替え開放した。この切り替え後、立位での伸展が一五度になり痛みも消失。更に、自宅のソファーから問題なく立ち上がれるようになった。


【まとめ】 今回は施術前にインフォームドコンセントを三十分かけて行った。痛みの原因がすべり症ではないことを納得してもらったことがその後の切り替えに役立った。また、そのことを言語神経反射で体感したことにより、治療効果は加速した。通常はAM、PCRTの順で施術をするが、今回は、起き上がる時の恐怖心があまりにも強かったため、PCRTで恐怖心の緊張パターンを切り替えることを最優先した。
症状が短期間に解決できたのは、女性の脳が柔軟で、自分の体の反応を客観的に見ることが出来たからである。「すべり症」の呪縛から開放され、本当の原因と向き合い認識し、脳をリセットできたことが症状改善へとつながった。

【考察】 病院で診断名をつけられると、患者は安心すると共に、その構造学的診断名に固執する傾向にある。しかし昨今、痛みの原因は脳の学習記憶であるということが証明されつつある。そのような中、PCRTは複雑な「思考」を客観的に捉えることを可能にし、新たな次元での痛みへのアプローチを開拓した。患者が本当に納得し、満足した治療を提供できることは本当にすばらしいと感じる。

【参考文献】 「腰痛ガイドブック」 長谷川淳史著
「続・腰痛をめぐる常識とウソ」 菊地臣一著