半年間続いた耳管開放症

 
報告者:菊地 光雄(カイロプラクティック・コンディショニング・ルーム・K

2009.11.16


【耳管開閉症とは】 
「耳管開放症はジャーゴによって1867年に初めて報告された病気」(参1)であり、耳管は鼻咽腔と中耳腔をつないでいる管で、大気と中耳腔の圧調整を行っている耳管が開放されたままの状態になり症状が出る。
エレベーターや飛行機に乗って耳が詰まってボーとしたり自分の声が大きく聞こえたりする症状で、この症状は「耳管」が開いたままになってしまうが正常であれば唾を飲み込むと改善する。

【機能解剖】 耳管は嚥下をすることで開き、その他の時は中耳を不必要な圧から守るために閉じている。耳管軟骨部の外側には口蓋帆張筋が付着しており、嚥下や開口、発声により口蓋帆張筋が収縮し耳管が開放する。さらに耳管の下には口蓋帆挙筋という筋肉も存在しており、口蓋帆張筋に準じて開放に関与し、耳管の開閉をコントロールしている。

【機能解剖】 「耳閉感、自声強聴(自分の声が大きく聞こえる)、自分の呼吸音の聴取が典型的な症状であるが、ロビンソン(1989)は低音域の難聴、非回転性めまいが起こる事を報告しており、耳痛、音程のずれなどの症状も起こる。前屈や仰臥位でこれらの症状が軽快消失する事がある。」(参2)女性に多く発症し、末梢循環の障害があり、気力や神経質などの精神面の障害がある。中には「自律神経失調症」といわれ精神科にまわされることもある。(参4)耳閉感は頭を下にしたり、お風呂に入ると一時的に良くなるが、激しい運動をしたりすると悪化したりすることもある。その他、立ちくらみ、睡眠障害がある。

【機能解剖】 疲れや不眠の状態が続いたり、急激な体重の減少などで起こりやすくなるといわれといわれているが、明確な原因についてはいまだ分かってはいない。専門医ではストレスの関与や上気道炎、副鼻腔炎に伴う後鼻漏、アデノイド肥大や腫瘍による機械的圧迫などがいわれている。
病理的疾患か機能的疾患なのか鑑別診断は専門医との連係も必要になってくる。今回の症例の患者さんは既に専門医で「病理」の可能性は否定されているので、機能的疾患であれば改善する可能性はあることを説明し、同意を得て治療を行った。

【患者Sさん】 女性 事務職 40歳代
【主訴】 09年3月頃より、回りの音や人の声、自分の声が頭の中で大きく響くように聞こえるようになる。フワフワめまい。耳鳴り(左右の優位さは判断できない)

【病歴、治療歴】 過去に同様な症状はなし。専門医へ受診し検査の結果「耳菅開放症」と診断されるが原因は特定できなかった。飲み薬を処方され服用すると2,3日は軽減するような気がしたが大きな改善なし。

【検査】 心身条件反射療法(以下PCRT)による「神経反射検査」及び「言語神経反射検査」を使用し、ブレインマップ、経絡、五感を評価して検査をすすめていく。
検査結果
検査を進めて行くと大まかに「職場の人間関係」が大きな緊張パターンになっていた。「職場の人間関係」の詳細な緊張パターンは以下の通り(陽性反応のみ記載する)
詳細検査結果
「職場の人間関係」を経絡、五感情報を特定し、さらに場所、時系列などから緊張パターンを生むイベントなどを詳細に探し出す。
経絡ブロック=小腸経、胃経で陽性反応
五感情報=聴覚情報、視覚情報で陽性反応
聴覚情報=職場の人の声(上司、話の内容)で陽性反応
視覚情報=同僚、電話の応対態度で陽性反応
場所・環境情報=職場で陽性反応
時系列情報=現在進行で陽性反応
神経反射及び言語神経反射反応によって小腸経と胃経、五感情報、聴覚情報、場所・環境情報、時系列情報の各陽性項目で緊張パターンの反応あり。

【治療】 検査反応で陽性項目の緊張パターンからリラックスパターンの切り替えを丹田に呼吸に合わせて「振動刺激」を加える。治療後は各陽性反応で緊張パターンが陰性に切り替わっているか再検査をして確認する。1回目治療(9月2日)各陽性反応が陰性になる。2回目治療(9月12日)聴覚:「同僚、話の内容」で陽性反応あり。この陽性反応は聴覚で新しい同僚の反応がでる 1回目の治療後自主的に薬の服用をやめる。3回目治療(9月15日)治療前の問診で症状の確認「大きな音が聞こえる」が改善する。若干耳鳴りあり。フワフワめまいなし。4回目治療(9月23日)各症状改善する。3回目までの各陽性反応は陰性になる。 4回目の治療は「気にすれば気になる耳鳴り」の治療を行う。 聴覚:「部下、電話の話し方」で陽性反応あり。 5回目治療(9月29日)前回までの各陽性反応は全て陰性になる。 全ての症状は改善する。 1ヵ月後に各陽性反応を示した緊張パターンの再検査を行うが、全て緊張パターンから開放されている。主訴としていた症状の再発なし。 4回目の治療後に患者がこのようなことを言った。「そういえばこの人事の問題がでてきたのは3月からでした」ストレスと症状の発症が同じ時期だったことで患者自身も症状と職場の人間関係のストレスが関係していたと何となく感じていたようだ。

【まとめ】 「耳管開放症」は機械的にみると耳管の開閉に関わっている「口蓋帆張筋」と「口蓋帆挙筋」の筋機能異常による結果として耳管の開閉が機能しなくなったと考えられる。筋機能は神経支配であることに目を向ければ筋機能異常は神経機能異常が関わっていることがわかる。
さらに神経機能異常も結果として捉え、神経機能異常を引き起こす原因を追究することで本質的な機能障害の治療が成立し再発の可能性が少なくなると考える。神経機能異常を引き起こす原因として自律神経系を乱すストレスの影響力は大きい。日常のストレスで自律神経が乱れて胃腸など消化器系に起きる障害は代表的な例であるが、同様に自律神経の乱れによって他の器官(筋骨格系含む)も機能異常が起きることも否定できない。
日常の反復される情報は五感を通して脳の学習となり「脳の可塑性」という特性が情報ネットワークを形成し顕在的に想起されない情報が条件づけされると考える。顕在的に想起されない記憶として運動技能の記憶、条件づけ、プライミングなどの「手続き記憶」ある。
過去の体験的なもの、あるいは自己の思考パターン、信念、教育などあらゆる繰り返される情報は条件づけされ「手続き記憶」すなわち長期記憶として潜在的に落とし込まれて想起されない記憶として存在し、現実の情報と一致するとネットワークで結ばれている情報が想起され神経の緊張がパターン化するのではないかと考える。
今回の症例は、本質的な原因を「身体と心の関係」からアプローチして脳が学習した顕在的に想起されない情報ネットワーク化された緊張パターンをPCRT特有の検査方を使って見つけ出し神経の緊張パターンからリラックスパターンに切り替えて、神経機能異常を改善したことが症状の短期間で改善した症例である。
現状では、このような機能的疾患の画期的な治療法が確立されていないため長期的で緩慢な経過をたどることがあり、その結果患者は代替医療に改善を求め訪れることがあるが、病理的なもの、機能的なもの鑑別診断は重要であり、代替医療家が全てを負うものではなく専門医との併用も必要になることも視野に入れて進めていく必要がある。 PCRTは患者の思考との関わりを持つため、患者とのコミュニケーションを密にしてラポールの構築は不可欠になる。そのため術者の資質が問われることも十分理解しなければならない。筆者も資質の向上が今後の課題となる。

 
参考資料
(参1、2)フリー百科事典ウィキペディア
(参3、4)耳管開放症ホームページ